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真空管ギターアンプ「FENDER CHAMP」のクローン的なものを自作する。6本目~ダンピングファクター~

 真空管アンプって面白いですね。年代柄、半導体から電子回路に入った口なのですが、こうやって真空管に必要なトランス出力式の手法を学んでみると半導体式とはまた違った動作による出音方法が見えてきて面白いです。転じて半導体アンプにも転用したり出来るはずなので、もっと道が広がりそうです。

 

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前回の記事はこちら 

culo.hatenablog.com

 今回はダンピングファクターに絞って簡潔な記事を目指す。・・・目指す。

ダンピングファクターとは?

 ダンピングファクターとは、アンプのスピーカーに対する駆動力を数値化したもので、その数値の意味する所はアンプとスピーカーのインピーダンス比である。この数値が高い程とくに低域の音がキリッとして締まりのある音になると言われている。なぜかというと、スピーカーは構造上コイルのようなデバイスでもあり、アンプから流れてくる電流を元にコイルで磁界を発生させ、磁石を動かしてコーン紙を振動させる。この時動いた磁石が戻るときにコイル側に電流を発生させる。この発生した電流をうまく処理できるかがダンピングファクターの数値として現れる。理屈から言えばダンピングファクターの数値は高ければ高いほど良い、となる。しかし、同時にダンピングファクターは無意味であるとの極端な意見もあり、論争の種にもなっている。なお、本記事ではダンピングファクターの概要と測定方法と技術面から想定される効果のみを記載し有用無用に関しては議論しない。

 

ダンピングファクターの計算。 

ダンピングファクターの計算 

         DF  =  \dfrac{Zload}{Zamp}

*Zload=負荷抵抗の事   *Zamp=アンプの内部抵抗の事。

 である。例えばスピーカーインピーダンスが8Ωとして、アンプの出力インピーダンスが1Ωとすると、DF=8だ。高周波でない限り出力インピーダンス(Zamp)はより低く、入力インピーダンス(Zspk)は高いほうが影響が出ないことは明白である。だが、スピーカーは一般的に4Ωとか8Ωとか16Ωとかの数値でインピーダンスとしては低く駆動しにくい。なのでアンプの出力インピーダンスにより低い数値が求められるわけだ。そしてD.F.を求めるにはアンプの内部抵抗値が必要でこれは負荷抵抗と違って簡単にテスターで測定できない。そこで少し面倒だが、負荷抵抗と端子オープンの電圧状態を測定して間接的に内部抵抗値を導く必要がある。

 

ダンピングファクターの測定。

  まずは必要な数値の測定を行う。先述の通りダンピングファクターは直接測定は出来ない(出来る測定器もあるかもしれないが)ので測定値から計算して導き出す。注意点としてFenderChampクローンのようにトランス出力式の場合は2次側の負荷によって1次側の負荷が決まるので2次側をオープンにしてアンプゲイン全開!。というわけにはいかない。2次側をオープンにすると1次側の6V6GT管のプレート負荷が無限大になってしまう。そうするとプレート電圧は大変高い値になる危険性を孕んでおり、プレート電圧のアブソリュートを超えてしまう可能性があるので、測定可能な範囲でなるべく小さい方が良いだろう。実際にはトランスなので本当に無限大になる事はないと思うが、こういったトランス出力の場合は入力とゲイン調整を0にしてから少しずつ上げて行う必要がある。また負荷が4Ωや2Ωなど小さい方が誤差が少なく測定できる。大まかではあるが20より大きいD.F.を測定する場合は後述の注入法をおすすめする。

「ON/OFF式」の測定方法。

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  1. アンプの入力端子に信号を入力、出力端子にて負荷有り、負荷なしの電圧を測定する。
  2. アンプの出力端子がオープン状態で各周波数で歪まず、かつ測定上の問題無いできるだけ小さい数値になるように入力レベルとゲインを調整する。
  3. 各周波数のオープン出力電圧を測定。
  4. ダミー抵抗を接続して各周波数の出力電圧を測定。
  5. 各測定値を元に計算からダンピングファクターを導き出す。

上記の測定が終わったら減衰率を求め、減衰率をもとに内部抵抗値を求め、内部抵抗値を元にダンピングファクターを導き出す。

 

減衰率の計算[ON/OFF式]

         減衰率  =  \dfrac{Vdm}{Vop}

*Vdm=ダミー抵抗接続時の出力電圧   *Vop=オープン時の出力電圧

内部抵抗値の計算[ON/OFF式]

         内部抵抗値  =  \dfrac{Zload}{減衰率}    -  Zload

*Zload=負荷抵抗の事

 

 ここまで計算出来たら、後は最初に紹介したダンピングファクターの計算を行うだけである。負荷抵抗 / 内部抵抗なのでお忘れなく。

 

「注入式」の測定方法。

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  1. アンプの出力端子にシグナルジェネレータから信号を入力し、その際の出力端子の電圧を測定する。
  2. シグナルジェネレータの出力電圧とインピーダンスを確認しておく。
減衰率の計算[注入式]

         減衰率  =  \dfrac{Vsi}{Vop}

*Vsi=アンプ出力端子へ入力した時のSG電圧   *Vso=オープン時のSG出力電圧

内部抵抗値の計算[注入式]

         内部抵抗値  =  \dfrac{Zsg}{Vop / Vst - 1}

*Zload=負荷抵抗の事   *Zsg=SGの内部抵抗

   内部抵抗値まで導いたら先程と同様ダンピングファクターの計算を行おう。

 

測定結果

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 さて、今回両方の測定方法でD.F.を求めてみたが残念ながらON/OFF式測定では傾向こそ一緒だったものの数値が0.8とまともに測定出来ている状態ではなかったのでここでは注入法で測定したグラフだけ掲示する。今回の測定ではネガティブ・フィードバックの有り無しの状態を測定比較してみた。まずは赤い線(NF有り)について見てみると100Hz~5kHz付近が最もD.F.が悪く5~6程度となっている。低いと書いたがトランス出力式で有ることを考慮するとそこまで悪い値ではない。対して100Hz以下は高くなり10Hz付近では40程度である。これはトランス自体がコイルと考えると必然的に低い周波数でのインピーダンスは低いので相対的にD.F.が高くなっていると思われる。また10kHz付近より上も高いD.F.となっているが、これはトランスのコンデンサ成分が強くなってくるかと思われるが…確証は無い。次に青い線(NF無し)だが、大きく違うところは100Hzから10kHz付近まで大きく凹んでいる点だ。特に1kHz付近は1となっていることからNF無しの場合この当たりの内部抵抗は50Ω程度(SGが50Ω出力だった)となり、アンプの出力を充分にスピーカーへ伝えられないと言えるだろう。音質への影響は一旦横に置いておくが、数値から考えるとっFenderChampはNF有りの5程度の数字は妥当であるとも言える。もしかしたらこのアンプの負帰還はこのために設けられたかもしれない。

簡潔な記事はどこへ(2800字超え)・・・

 

次は多分最終回。S/N比でも測定してみようかな?

 

 

ではまた。

 

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