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真空管ギターアンプ「FENDER CHAMP」のクローン的なものを自作する。7本目~S/N比と歪率~

あけまして大変お待たせしました。

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前回の記事はこちら

culo.hatenablog.com

S/N比とは

 SNRとも。シグナル/ノイズ比の事でノイズに対してシグナルの大きさがどの位かを示している。この数値が大きいほどノイズが抑えられたアンプであるという証明になる。耳の良い人で60dB差のノイズがわかる程度と言われており100dB以上のハイスペック機は無意味だとも言われており論争の種となっている。まぁオーディオに限らずノイズが無いほうが良いのはアナログだろうがデジタルだろうが明白であるのだが、ある程度ノイズが入っていた方が良いという意見もある。個人的に技術者としてはS/N100dBが例え本当に意味がなかったとしても目指したい。

 

測定条件。と、言い訳。

  今回のS/Nの測定には注意点がある。まずフィルタが無い事。通常オーディオ系のS/N比を測定するにはA weightとかA特性と呼ばれるフィルタを入れてから測定する。このフィルタの存在は「実際に感じる音の大きさ」=「スピーカーから出る音の大きさ」ではないという現実に合わせるものとなっている。例えばある製品から1kHzのと100Hzの2種類のノイズが同じ電気的な大きさで発せられていた場合、実際の人間の耳には1kHzのノイズが目立って100Hz の方はあまり気にならないという現象が起きる。これは電気的に同じ音の大きさがスピーカーから出力されていても、実際に耳で聴いた場合は低音は小さく、1k~6kHz辺りが最も大きく聴こえ、それ以上の高音域になると転じてまた小さくなっていくように聞こえるという人間の耳の特性が関係している。では1kHzの、とある大きさの音を基準として低い周波数、高い周波数が同じ音量に聞こえるようになるにはスピーカーから電気的にどのくらいの出力で音を出せばよいか。これをグラフ化したのが下記「等ラウドネス曲線」である。

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等ラウドネス曲線 - Wikipedia から引用

 これらの現実からA-weightというフィルタリングが規定された。オーディオは人間の耳で聴くものなのでこのA-weightフィルタを通した音が品質に直結するのだが、残念ながらフィルタの実装されたオーディオアナライザをもっておらず、PCのフリーソフトアナライザにもなさそうなので今回の測定はz-weightフィルタ。つまり「フィルタ無し」で測定することになるという前提条件がある。

 

S/N比の測定

 まずファンクション・ジェネレータから直接UR22mk2へ入力して見てそS/Nを測定してみる。

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 入力レベルは約-6dB、信号が大きくなればS/Nは結果的に良くなるのだがUR22mk2かWaveSpectraのせいか0dB近くは歪が大きくなって正しい値にならないのでこのレベルにしている。フロアノイズは計算すると約-122.67dBになる。で、これはUR22のサンプリング周波数が192kなのでその半分の約100kHzが帯域となる。この帯域の積分ノイズがS/NのNとなるので単純計算で-122.67+(20log(√100kHz))=-72.67dBが0dBを基準にした時の最大S/Nのノイズの大きさとなる。

 ところが人間の耳の帯域は一般的に20kHzだと言われていて考慮すると結局79.65dBとなるので、これを実行電圧に治した場合の比率はS9627/N1となりノイズの大きさはシグナルに対して1/9627程度であると計算できる。これが今回のリファレンスで、これより小さなノイズは今回の測定環境ではどう頑張っても望めない。早くも100dBの希望は撃墜されてしまった。

 

同軸シールド未使用での測定

 どうも色々なサイトや本を読む限り普通真空管の信号ラインには同軸ケーブルを使うことが多いようだ。電源はAC100Vから200Vとか400V辺りを造るし電源トランスもノイズやらハムやらを撒き散らすので当たり前であるとは思う。ところが今回興味本位から一切同軸シールドを使っていない。なので観測上結構な50Hzの電源ハムノイズが観測されている。これらの対策を施さなかった場合にどのように影響するのかを知りたかったからだ。

 ともあれ、まずは測定してみよう。測定器は信号源にファンクション・ジェネレータからサイン波1kHzをFenderChampCloneに入力、FCCの出力をオーディオインターフェイス「UR22mk2」へ入力、PCソフト「WaveSpectra」によってS/N比解析を行う。

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42.06dBと見える。例によって20kHz の帯域ノイズへ変換すると7dBを足して49dB、シグナルが測定の都合上-6dBにしてあるので0dBとすると55dBとなる。フロアノイズはシグナルを0として42.06+6+20log(√20k)=91dBと計算できる。歪は考慮していない。200Hzより高音域は-110dB程度に見えるが50Hzのハムノイズもあるので平均フロアノイズはこの程度の数値のようだ。55dBは実効値に治すと562倍。ノイズ1に対してシグナルは562倍の大きさである、という数値である。

 

同軸シールドに変更してからの測定

 2つの信号ラインを同軸シールドに変更してから測定した。同軸シールドとは単純な一本の線では無く信号用の中心の線と、その周辺に誘電体、さらにその周辺にシールド用の網線を巻きつけたもので、エレキギターギターアンプを接続する通称「シールド」も同様の形状であるからこう呼ばれる。今回は入力ラインとフィードバックラインのケーブルを同軸に変えた。その後の測定では以下の結果となった。

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42.81dBとなっている。気休め程度に良くなったようだ。もともと配線が無茶苦茶なので致し方ないかもしれない。先程と同じ42.81+7+6=55.81dB。実効値は617倍だった。

 

おまけ:疑似A-weightフィルタを計算して適用してみる

 A-weightフィルタは無いしWaveSpectraにもその機能は無いが、計算上ではその値を導けるだろうと考えていた。で、GoogleSpreadsheetで色々と数値を弄っていた所以下の数式でA-weightフィルタを擬似的に挿入した場合の数値を導き出しが出来た(と思う)

まず下記の式で0~20kHzを細切れにして各帯域ごとにノイズ実効値にする。

 帯域ごとにノイズ実効値化する

VBnN=10^{\dfrac{fN}{20}}\times \sqrt{Band(Hz)}

※VBnN = Volt Band n Noise = ノイズ実効値

※VfN = Volt floor Noise = フロアノイズ対数値

※Band(Hz) = 対象の帯域

※nは帯域1とか帯域2という意味。

 

その後VBnN(ノイズ実効値)を合算するのだが、次の式で足し算する

 帯域ごとのノイズ実効値化する

totalVBnN=\sqrt{VB1N^2+VB2N^2・・・VBnN^2}

※totalVBnN = 合算ノイズ実効値

ここで合算ノイズ実効値が出たのであとは対数に治すだけ。

 帯域ごとにノイズ実効値化する

totalVBnN=\sqrt{VB1N^2+VB2N^2・・・VBnN^2}

複雑ですね。

 で上記で計算した計算上のフィルタとフロアノイズを合算したグラフが下の図。

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そしてこれらの数式群から導き出されたA-weightフィルタ有のS/N比は79.44dBとなった。この計算式でZ-weightフィルタを計算すと76.99dBとなるので79.44-76.99=2.45となるので同軸シールド採用後のS/Nに足して58.35dBと考えることが出来ると思う。

 

このシリーズは一旦ここで終了。気が向いたら音でも上げようかと思います。

 

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