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真空管ギターアンプ「FENDER CHAMP」のクローン的なものを自作する。5本目~負帰還~

  梅雨の時期になってしまいました。月イチ更新できればと思っても結構伸びがち。遅筆なcuLoです。


 

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前回の記事はこちら

 

culo.hatenablog.com

 「負帰還」とは?

 負帰還、ネガティブフィードバックとも。アンプは負帰還をかける事で周波数特性の改善とノイズの低減、また後述するダンピングファクターという係数を上げる事でスピーカーでの出音を改善する事ができる。聞くだけなら良い事だらけである。しかしデメリットも存在しゲインが小さくなったり、場合によっては発振してしまったりすることも。アンプの回路図を見ると負帰還はオーディオアンプには大抵入っているようだが、ギターアンプは入っていても負帰還量は小さかったり無かったりする。もちろんそういう傾向が有るというだけで「モノによる」としか言えない。大まかなメリット・デメリットは下記へ。

■メリット

  • 周波数特性の改善
  • ノイズ、歪の低減
  • ダンピングファクターが大きくなる。等・・・

■デメリット

  • ゲインが小さくなる。
  • 発振の可能性がある。
  • 音が良くないとか議論がある。等・・・


負帰還のイメージ

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 上記図は負帰還の考え方を単純に表したものだ。結果を言うと出力はアンプの裸増幅率Avが大きいほどその増幅率を無視してn倍に近づく。更にこの増幅率を無視してn倍に近づくという増幅特性が周波数特性をフラットに近づける。反面、全体としての増幅率は小さくなるので目的の電力を得るためには十分な増幅率の余裕が必要になる。ここに記した図は位相が逆相に出力される場合のフィードバックの図で、よく見てもらうと出力が逆相になっており1/nした戻り分も逆相となっている、これらが入力とぶつかって合成されるとアンプの入力には正相のごく小さな信号が入力されている事となり、最終的な増幅率が小さくなる。これとはもう一つ、位相が正相で帰って来るタイプの負帰還があり、Fender Champクローンにはこの正相帰還タイプが使われている。しかし位相が正相なだけで効果は一緒である。この辺は気が向けば掘り下げても良いかもしれない。


FENDER CHAMPクローンの負帰還回路

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 今回製作したチャンプの負帰還回路は上図の青枠で囲んだ部分。これが今回クローズアップする回路である。回路図を見てもらえば分かる通り負帰還を構成するには1本の抵抗を追加するだけでカソード抵抗は共用して使える。回路としては大変単純なもので、トランスのアウトプット部分から2段前の増幅管のカソードに抵抗を使って繋いであるだけだ。さて、これがどんな動作をするか先ずはその動作を考えてみよう。

負帰還の動作

 まず回路動作原理を理解するために簡略化して最低限必要なアンプと回路のみに分けてみよう。そうするとFender Champクローンは下図になる。「負帰還のイメージ」項で説明したように本機は正相で戻って来るタイプで、1/n回路部分は「R1 / (R1+R2)」に相当する。

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 この回路の動作は、入力信号がアンプで増幅されて、1/nになって戻って来た信号と比較されて入力信号を小さくしてから増幅、という動作をする。 アンプ自体の裸増幅度(負帰還回路が無い場合の増幅度)が大きいほど全体での増幅度はnの値に近くなる。さて、この回路はどこかで見た事のある人も多いだろう。オペアンプの非反転増幅回路だ。つまり最初に「負帰還とは」の項目で書いた反転増幅とは違って戻ってくるのは正相である。

負帰還の計算

  それでは具体的な数字を入れて計算してみよう。必要な数値は裸ゲインと、どの位の負帰還量とするかを任意で決める必要があるが、今回は負帰還量はすでに決まっているので負帰還回路の比率から計算して負帰還量を導き出す。なお、ここで扱うのは電圧なのでゲインの計算は20*log(Av)か10^dB/20で計算できる事を断っておく。

・二段目ゲイン = 30dB、パワー管ゲイン = 28.3dB、合計58.3dB

真空管ゲイン計 58.3dB = 30dB + 28.3dB = Av 822.24倍

・トランス出力計算値 = トランス比(29.5:1)からAv822.24:27.87

20log(27.87) = 28.9dB、裸ゲイン = 28.9dB、裸増幅率 = NKAv27.87

・R10 = 56k、R4 = 1.5kΩ から R4 / ( R4 + R10 ) = 1.5k / 57.5k、分子を「1」として約分すると1 / 38.3

・負帰還後の増幅率、ゲインをそれぞれNFBAvNFBdBと表す。

・入力電圧はEとする。とりあえずE=1とする。

負帰還を掛けた時の全体の増幅率の計算 

NFBAv = E \dfrac { \mathrm{NK}Av }{ 1 + \mathrm{NK}Av \dfrac {R4} {R4 + R10}} \\ = 1\dfrac{27.87}{1+27.87\dfrac{1}{38.3}}\\ = 16.13

イコール並べられない・・・

 上記から結局増幅率は16.13倍となる。対数表示で24.1dBのゲインである。この計算からどのくらい負帰還が掛かっているかは次の計算となる。

裸ゲイン 28.9dB - 負帰還後ゲイン 24.1dB = 負帰還量 4.8dB

では負帰還量を先に計算する場合は?、次の通り。

負帰還量の計算 

 NFB量 = 1+NK Av \dfrac {1}{38.3} = 1.72 = 4.71dB

そう、実の所Fender Champクローンの裸ゲインはあまり高く無いので、思ったよりフィードバックが掛かっていない、というか掛かってはいるがガッツリと効いてはいない、というオチである。とはいえ多少なりとも負帰還の有無で音の違いがあったので実測にて確認してみた。

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 上図は赤色がNFB無し緑色がNFB有りの時のFFT波形である。低域が荒ぶっているのはジェネレータの都合なので無視してほしい。で、注目してほしいのは右側30kHzポイントで、そのレベル差がほぼ無くなっている事だ。共に注目してほしいのがNFB無しの波形では10kHz以上あたりからの周波数でレベルがダラダラと下がっていっているが、NFB有りの場合は20kHz位以上になってから下がっている。つまりNFBによってレベルは下がってしまったがレベルの安定している周波数帯域はNFB有りの方が広いという事だ。これを周波数特性の改善、通称「f特の改善」という。今回の波形からは高い周波数の改善が確認しやすいが、低音方面にもやはり同様の事が起こっている。

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上記図はf特の悪いアンプを負帰還で周波数改善される様子、の極端な例を試算してみた現実にこんな特性のNFBは色々と弊害が考えられるが青い線がアンプの裸ゲイン赤い線が負帰還後のゲインである。裸ゲインでは10Hzで16倍24dB程度だが、3kHzに向かってオクターブ当たり25dBで上昇して約15000倍83.5dB、一転それ以降はオクターブあたり-60dBも減衰する。もしこんなアンプを負帰還無しで鳴らしたならば3kHz付近のドラムのハイハットとかシンバルの金属音、ピアノの一番高いところの音だけが強調されて、ベースや人間の声は相対的に小さく聞こえて音楽を楽しむ余裕は無いと思われる。ところが、負帰還を掛けた途端、赤い線の比較的フラットな特性となる。オーディオ的にはまだまだ低域高域両方共に伸ばしたい所だが、裸ゲインよりは遥かにマシな特性となっている。なぜこうなるかは先述の負帰還後の計算式で書いたとおりの計算を色々な周波数の時のゲインで計算してみれば解るだろう。

 

負帰還でノイズが減る

 負帰還をかけるとノイズが減る。予め断っておくと、減衰するのは入力が無くても出力されるノイズであって、入力信号に乗っているノイズは減衰されない。これは基本的に信号と一緒に乗っているノイズは人間の耳には音と雑音に分離出来ても電子回路では分離出来ないからだ。なので入力前にしっかり処理しておく必要がある。入力が無くても出力されるノイズとは?。これは電源や、流れる電流や、それによって作られた磁界や、周りからの影響で現れるノイズ、そもそも増幅素子が持っているノイズ等が最終的に出力に現れるノイズ、とにかく入力には存在しないが、アンプの出力には現れるノイズの事だ。これらは負帰還回路を通って入力に戻されアンプで増幅され再び出力に現れる。こう書くとノイズが増幅されるように思うかもしれないが、再び現れたノイズは位相が反転している。なので、元のノイズと打ち消し合ってしまうのだ。とは言ってもノイズが完全になくなる訳ではなく次の計算で小さくなる。

ノイズの計算 

 NFB.Noise = Noise\dfrac {1}{1+NK Av \dfrac {1}{n} }

 この式に仮にNoise= 1 、NK Av = 27.87 、n = 38.3を代入して計算してみるとFenderChampクローンはだいたい半分程度のノイになっていることが解る。またこの式から裸ゲインが大きい程、1/nのnが小さいほどノイズが小さくなる計算になる。もちろん限度はあるが。

 

 

まとめ

 この計算群はすでに確定しているアンプから数値を逆算したものなので設計する場合は別の計算でどの位の出力にするのか、どの位の負帰還をかけるのか。とすると、どの位の裸ゲインが必要なのか解ってくると思うがこれはまたの機会に。

今回はFenderChampクローンの負帰還を延々と調べて結果を書いてみたが、負帰還の概念やメリット・デメリットは大体理解頂けただろうか。この回路構成はもちろん普通のトランジスタアンプにも適用可能なので、トランジスタアンプやエフェクターを作って見ようという人でフィードバックを掛ようとしている方は是非この計算群を使ってみてほしい。また最初期のギターアンプというだけあってか、大変オーディオライクな特性で有ることが解った。反面FenderChampには初期のものはゲインのコントロールポッドしかついていないが、後発のものにはトーンコントロールとしてTreble、Middle、BASSが搭載されている。これらのコントロールが追加されたFenderChampはFenderらしいあの「ジャキーン」とした音がするので、裏を返せばトーンコントロールがオーディオアンプとギターアンプを別ける大きな要因である事は間違いないだろう。そのうちトーンコントロールも深追いしてみようと思う。

 

ダンピングファクターについては次の記事で。

 

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 執筆中・・・

 

 

 

 

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