「バッファ」は悪者なのか?比較してみた。
バッファと言えば分野によって内容が異なる言葉です。無線系では極小信号を次のICが受け取れるようにする極小電力アンプの事。デジタル系では5Vの信号を次3.3Vに渡す時、直接渡すと次のICを壊しかねないので信号レベルを3.3VにするICの事、もしくはその逆。はたまたコンピュータの一時レジスタの様な物だったり、で、今回はハイインピーダンスをローインピーダンスに変えるエレキギターのバッファについて調べてみました。
目次
というのも巷には「バッファ悪者論」みたいのがあって
- 〇〇のバイパスはバッファを通っているから音質が悪い
- いくつもバッファタイプのエフェクターを通すと音痩せする
- バッファだ!!!◯せ!!!
など、過激派まで現れてしまう始末。cuLoの元には自作のエフェクターは転がっているもののバッファードバイバスのペダルはBOSSのOD-3くらいしかありません。そこで得意の自作回路を組んで調べればよいではないか!。というわけです。できるだけ「回路なんてわかんねぇ~」という方にも伝わるように善処します。・・・たぶん善処する気がします。
実験回路
今回試したのはオペアンプを使ったボルテージフォロワというバッファで、アンプの一種ですが電圧増幅率=1倍。つまり電圧は増幅していませんが、代わりにオペアンプの性能と負荷にも寄りますが10mA~程度の電流を確保してくれます。回路図は以下の通り。
無駄にバッファを6個つなげました。なんだかギタリスト的には意味がありそうに思う回路かもしれませんが、回路としては何の意味もありません。これにより左上の330uFから入力された信号はバッファ→バッファ→バッファ→バッファ→バッファ→バッファという回路ができました。バッファ以外の要素として入出力のコンデンサと抵抗、バイアス電圧回路(左下)によってハイパスフィルタ(高い周波数を通す)が形成されますが、入力で遮断周波数1mHz以下、出力で10mHzというフィルタなので基本的に無視できます。
まず調べたのはバッファ自体の性能はどうなのか?ということです。入力に対して出力を調べてみます。青色が入力で、黄色が出力の波形です。
測定条件は100Hzから20kHzまで1Vp-pを入力し、入力波形と出力波形を比べる。です。
途中、時間軸スケールを変えたので見た目の波形が伸びていますが、測定上問題はないです。そして上下の波形を比べる限り視覚的に大きな変化はありせん。詳しく見てみたい方は拡大して数値を追ってみてください。
波形は100、300、700、1k、3k、7k、10k、20kHzの順で並んでいます。
見ての通り電圧波形は変化がありませんでした。また視覚的には歪要素もありませんでした。したがってバッファ音質劣化説の悪者要素はこの時点では「無」です。
バッファ有り無しの聴き比べ
では出音はどうだろう?。ギターからの出力をバッファを通した音、バッファ無しのスルーの音と比べてみました。
測定条件はcuLoの弾くギター→バッファ有or無→ギターアンプ(Vol3、Low5、High5)、ライン出力をインターフェイスへ。DAWはそのまま何のエフェクトも掛けずに生録音、という条件です。本来はルーパーなどを使えば同じ音を入力出来るのですが、現在ルーパー半壊中なもんで・・・。
少し音が小さかったですが、どのように聴こえましたか?。
明らかにバッファ有りのほうが明るい感じ、高音が出ていますね?。これは低音が引っ込んだ状態でしょうか?。それを確かめる為にさらにもう一度ルート音、つまり低音に注目して聴いてみて下さい。注意して聴くと低音はそのままの音量だと思いませんか?。
これを「音質劣化」と呼ぶかどうかは個人の裁量となりますが、cuLo個人としては劣化とは言えませんですはい。
果たして高音が出ているのか、それとも低音が沈んだのか。アンプの出力LineOUTを測定してみました。
測定条件はファンクション・ジェネレータから200mVp-pサイン波を入力し、アンプ出力LineOUTにて測定、対数(dB)に変換してその差を確認します。
単位を書き忘れてますが、縦軸はdB、横軸はHzです。あしからず。
ほとんど変化はないのですが、バッファ有りの方がほんの少しアンプからの出力が強くなっています。また、200Hzの差は誤差と思われますが、8kHz以降はよく見ると電圧差が出ています。
8kHzといえばギターの出力音ではハーモニクス、しかも3倍以上のハーモニクス音のほんの少しの違いがこんなに影響するとは新しい発見でした。
推測
しかし何故、バッファの入出力で差がないのにこのような音の変化があるのか?。推測してみます。
まずギター本体のインピーダンス(純抵抗)はテスターで見る限りリアハムバッカーで13kΩ。エレキギターの出力インピーダンスとしては普通の事ですが、信号源としてはかなりの「ハイインピーダンス」です。これに対し、アンプの受け側回路を見るとR22がシリアルに入ってC28がパラレルなので、ここでローパスを形成しています。これじゃないか?
バッファ無しの場合 0.159 / ( 47p x ( 10k + 13k ) = 約147kHz
バッファ有りの場合 0.159 / ( 47p x ( 10k ) = 約338kHz
(´ε`;)ウーン…バッファ無しでも147kHzかぁ。ではD1、D2の寄生容量はどうだろうか、えーとデータシートを見るとティピカル15p。合わせて30。パラなのでC28 に足して77pになるので・・・
バッファ無しの場合 0.159 / ( 77p x ( 10k + 13k ) = 約89kHz
バッファ有りの場合 0.159 / ( 77p x ( 10k ) = 約206kHz
それでも89k。あとは基板の誘電率とかL3とか、オペアンプの実際の入力抵抗とかシールドケーブルの入出力特性等を考慮に上げるべきかなとも思いますが、流石に時間がかかりすぎるのでこの辺で推測は一旦終了。ただ、バッファの有る無しでざっくりですが遮断周波数が計算上倍近く伸びるので無関係とは言い切れませんね。あくまで半減する場所がカットオフ周波数であり、実際のその減衰はその前から起こっています。回路で追いにくい上記の数値も関係しているよう考えられます。
というわけで音質悪化については「?」。個人的にはバッファが音質悪化するとは思えない結果となりました。
音痩せについて
では音痩せについてはどうでしょう?。BOSS製のエフェクターを複数つないでスルーで出すと音痩せする。と言われています。バッファ回路、というかエフェクターは通常単電源で動作させる物が殆どですので、構成上動作のためにはバッファだろうがドライバーだろうがDCカット、バイアス等を加えてあげる必要があります。これらを加える過程でどうしてもハイパスフィルタを構成する必要が出てきます。原因はこれではないでしょうか?。検証方法はシミュレーションで、BOSSのOD-1のバッファ回路を10連でつないでみた場合のそれぞれの周波数特性です。横軸周波数、縦軸が電圧(dB)。
拡大するとギリ数値が見えます。
10連でバッファを通すともなると電圧はほぼ半減(-5dB)、低域は100Hzから下は大幅に落ち込んでいます。これは6弦はかなりの減衰を受けていることが伺えます。実証試験を行っていませんが間違いなくこれが音痩せの原因です。
というわけで、バッファではなくバッファの周辺回路がいくつも重なると音痩せする。を暫定解としますね。
まとめ
上記の2つの実験、シミュレーションから導き出された答えは、
- バッファは多少連属接続しても悪さしない。
- バッファを動作させるための周辺回路が「音痩せ」を作る。
- バッファは生かそう!!!
でした。
ではBOSSのエフェクターは複数接続することはできないのか?
解決策
トゥルーバイパス式のスイッチャーを使えばエフェクトオフ時のバッファードバイパスを回避できますよ!